寺尾啓二の認知症予防対談 バニラファッジ×寺尾啓二 第2回

高齢者お二人の介護をするブロガー・バニラファッジさんと寺尾啓二さんの対談はとても前向きなものへと進んでいきます。人は誰しも否定されると嫌な思いをする。そんな観点から認知症のお義母さんの介護をすると「肯定することの大事さ」に気づく。そう、それはまるで子育てと同じ。まずは認めてあげること。そんな気づきを行動に移す大切さを語って頂きました。
対談第3回は【好きな物を食べる、好きなアイドル応援する。それが脳の活性化!】です。どうぞお楽しみください。

好きな物を食べる、好きなアイドル応援する。それが脳の活性化!

寺尾啓二(以下、寺尾) お義母さまの認知症についてお聞かせいただきたいのですが。認知症の症状のはじまりはどのような感じでしたか?

バニラファッジ(以下、バニラ) 一番初めに気付いたのは、爪を切るのにホッチキスをあてた時です。それはすごく衝撃的でしたね。「それは爪切りじゃないよ!ホッチキスだよ!」と説明しても全然わかってくれなくて。その時にこれは認知症だなと思いました。今思うと、それよりも前に「変な服を着始めたり」、「お風呂が好きだったお義母さんがお風呂に入らなくなったり」など融通が利かなくなってきたという予兆がありましたね。

寺尾 認知症が分かった時、病院などには行かれたのですか?

バニラ 全く行きませんでした。治る病気ではないと思っていましたし。家族には「おばあちゃんの変な言動は笑い話じゃなく認知症という病気だから、理解してね。」とは言いましたね。でもブログにお義母さんのことを書くと読者の方から「病院に行ったほうがいいですよ」とのお言葉を頂いて、その時初めて「病院に行った方がいいんだ」と思って行くようになりました。今では病院から認知症の進行を遅らせるお薬を頂いています。

寺尾 私の知人のお母様も認知症なのですが、「息子のことを息子として理解できなくて、弟として理解していてとてもショックだった」と言っていました。

バニラ ありますね。お義母さんは、うちの主人のことも自分の弟だと間違えますよ。きっと弟さんの若いころの面影があるんでしょうね。自分が40代50代になっているつもりの時もあります。そんな時、私はふざけてお義母さんに手鏡渡しちゃいます(笑)。

寺尾 渡すとどうなりますか?

バニラ 「あ~年とったわ!80歳過ぎるとこうなるのかね?」なんて言いますけど、私が「お義母さん91歳だよ!」とすかさずツッコみます(笑)。妹のことも分からないですから、お義母さんはよく「妹はどこ?」って聞くんですが「目の前にいるよ」と答えると、「私の妹はこんなおばあちゃんじゃない!」って言うんですよ。おばさんは「そんな失礼な!」って本気で怒ってますけど(笑)。でもお義母さんは「あ、そうだった?」ぐらいの反応で終わりますね。もう本当にツッコみどころ満載で楽しいですよ(笑)。

寺尾 それはおもしろいですね!

バニラ うちの主人は弟と間違えられると「弟じゃない!息子だよ!」って一生懸命言いますけど、でもあまり大騒ぎしない方がいいみたいですね。間違っていてもまずは同意してあげていると、どこかのタイミングで息子だと気づく時がありますから。

寺尾 私も母が同じことを言ったらご主人と同じ反応をしそうですね。

バニラ 先ほども言いましたが、認知症の方にはあまり否定をしないほうが良いと個人的には思っています。認知症で怖いのは、食べてはいけないものを食べたり、汚物をタンスの中に隠したり徘徊したりすることなのですが、うちのお義母さんはそういったことが一切ないんですよ。認知症はみんなそうなると私は思っていたんですが、お義母さんは下着を汚した時は自分で教えてくれるし、隠すようなこともしないんですよね。自分で言うのもなんですが、それは私が今まで否定せずに受け入れてきた結果じゃないかなと思うんです。何か間違ったものを飲もうとしたこともありますけど、それに対して「何をやってるの!それは飲むものじゃないでしょ!」と怒るのではなく「危ないからこっちへ置いておくね」と言って、絶対に叱ることはしませんでした。トイレの場所もよく分からなくなるので「トイレはこっちでしょ!何やってんの!」と思わず言いたくなりますが、そういう時も「お義母さんトイレはこっちだよぉ~。一緒に行こうかぁ。」と言って連れて行ってあげます。

寺尾 子育てと似ていますね。

バニラ そうなんです。思春期の子供と一緒なんです。否定すると反抗してしまって。肯定した方がひどいことにならないんだろうなと思います。年をとってから叱られると本当に惨めだと思うんですよ。叱っている人を見ると、高齢者を敬ってほしいなと思いますね。介護される高齢者も頑張って長い人生を生きてきたのですから。

寺尾 その通りですよね。私もそう思います。ただ、うちの母は耳が遠くなってきてしまって、聞こえないので大きな声で話すと、「そんなに怒鳴らなくても聞こえるよ!」と言われてしまいます。難しいですね。

バニラ うちもよくありますよ。

寺尾 話は変わりますが、お義母さんたちの食事とかは何か気を付けていますか?

バニラ 栄養とかはあまり考えずにお義母さん達の食べたいものを作っています。この年齢まで頑張って生きてこられたので、我慢せずに好きな物を食べてもらいたいなと思って。

寺尾 よく食べられるのですか?

バニラ 本人は食べていないって言いますが、しっかり食べていますよ、文句を言いながら(笑)。

寺尾 食欲があると安心ですね。おばさんは認知症の症状がないとのことですが、何か予防などをされていますか?

バニラ 特に予防はしていませんが、新聞とかはしっかり読んでいますね。おばさんはアイドルの嵐の大ファンなので最近は新聞のテレビ欄で嵐の出演番組を積極的に探していますよ。「嵐」という文字に敏感です(笑)。ブログでは抑えて書いてますけど、かなりの嵐好きなんです。それと大の野球ファンなんです。新しい選手の名前も全部覚えていますよ。とにかく若い男の子が好きなんです(笑)。おばさんは永遠の乙女ですね(笑)。

寺尾 年をとってもそういうときめきとか感動をしていると脳は活性化するので、しっかりとした認知症予防法になっているのでしょうね。

バニラ おばさんの嵐好きがそんなところに役立っているとは!(笑)

バニラファッジさん プロフィール

1963年生まれ。美術短大を卒業後グラフィックデザイナーに。1990年結婚、3年後長女出産を機に退職。その2年後双子の出産を機に夫の実家に転居。姑、姑の妹との同居が始まり7人家族になる。2006年から、嫁vs姑の様子や3人の子育ての様子を綴ったブログ「7人家族の真ん中で。」をスタートし2008年に1000万アクセスを達成。近年は主に姑の介護をテーマに更新し、2013年に1億アクセスを達成。現在も毎日更新中。2009年に立ち上げたお嫁さん応援サイト「お嫁さんな日々」では、お嫁さんのお悩みコーナーやオリジナルグッズの販売も。著書に「7人家族の真ん中で。」「スーパー嫁の汗と笑いの在宅介護」がある。
ブログ「7人家族の真ん中で。」http://carmine-appice.cocolog-nifty.com/blog/
公式HP「お嫁さんな日々」http://vanillafudge.jp/

寺尾啓二 プロフィール

’86年京都大学大学院工学研究科博士課程修了。京都大学工学博士号取得。専門は有機合成化学。ドイツワッカーケミー社ミュンヘン本社、ワッカーケミカルズイーストアジア(株)勤務を経て、’02(株)シクロケム設立、代表取締役に就任。東京農工大学客員教授、日本シクロデキストリン学会理事、日本シクロデキストリン工学副会長などを兼任。’12年から神戸大学医学部客員教授と神戸女子大学健康福祉学部客員教授を兼任。趣味はテニス。