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豊かな環境が脳に効く仕組みの一端を世界に先駆けて解明:九州大学(2018.9.29)

 九州大学医学研究院の研究グループは、神戸医科大学、愛知医科大学と共同で、軟骨の成分であり、神経系の発達や再生への関与が注目されているコンドロイチン硫酸が、環境刺激によって発達後の海馬でニューロンが新たに生み出される際の鍵となる役割を担っていることを発見して、この成果がアメリカ神経科学学会誌『The Journal of Neuroscience』に掲載されました。
 五感を介した刺激の豊かな環境は、子供の脳の発達や高齢者の脳機能の維持に重要である可能性が指摘されてきましたが、認知と情動の中枢である海馬では、脳の大部分の領域とは異なり、発達後もニューロン(神経細胞)が生み出される成体海馬神経新生現象が起こっています。これによって生み出された新生ニューロンは、記憶や学習、気分の調整などに重要な役割を果たしていることがわかってきましたが、刺激の多いゲージ(豊かな環境)で飼育された動物の海馬では、新生ニューロンが増加し、ストレス環境下の動物では新生ニューロンが減少することが報告されています。
 研究グループは、海馬におけるコンドロイチン硫酸の発現量が環境因子によって増減することに注目して、成体海馬神経新生現象との関連を検討したところ、コンドロイチン硫酸を人工的に分解すると、新生ニューロンが減少し、記憶・学習能力の低下が起こることがわかりました。さらに、豊かな環境で飼育した野生型マウスではコンドロイチン硫酸と新生ニューロンが増加し、記憶・学習能力が認められたのに対して、コンドロイチン硫酸の合成に必要な酵素の一部を欠損させた遺伝子改変マウスでは豊かな飼育環境下でもコンドロイチン硫酸が増加せず、新生ニューロンの増加と記憶・学習能力の向上も起こらなかったとしています。